温州みかんのような果物には果糖が比較的多く含まれていることから、肥満や高脂血症・糖尿病には良くないとされていたのですが、今では、通常の食生活において摂取するレベルでは問題の無いことが明らかにされています。むしろ、糖尿病患者の食事指導においては、毎日80 kcalの果物(ミカンで約2個程度)は必要と考えられています。
β−クリプトキサンチンは温州みかんに特に多く含まれる成分で、α-カロテン、β-カロテン、ルテイン、ゼアキサンチン、リコピンとともに、ヒト血液中の主要カロテノイド6種類の一つです。
これらカロテノイドの中でも、β‐クリプトキサンチンは、血中レベルが高いとインスリンが効きにくい状態のインスリン抵抗性となる可能性が低くなるとの報告があります。
リコピンやβ-カロテン等にも同様の関連がありますが、男女ともに有意な関連が認められたのはβ-クリプトキサンチンのみであったという研究成果が報告されています。
インスリン抵抗性を予防することはII型糖尿病のリスクを軽減する上で重要ですが、β-クリプトキサンチンを豊富に含む温州ミカンなどのカンキツ類の摂取はインスリン抵抗の予防に有効かもしれません。
また、フィンランドで行われた4,304名を23年間追跡調査した研究では、糖尿病罹病のリスクを有意に下げていたのはカロテノイドではβ-クリプトキサンチンのみであったとの報告があります。
さらに、河田照雄・京都大学大学院農学研究科教授らによるとβ-クリプトキサンチンには、脂肪細胞が大きくなるのを抑える作用と、脂肪の合成を抑える作用があることが報告されていて、肥満対策にも効果が期待できます。
みかんをたくさん食べ続けた時に皮膚が黄色くなるのは、β-クリプトキサンチンによるものです。みかんを食べるのをやめると元の皮膚の色に戻ります。このとき、肌の黄色の濃淡は、β-クリプトキサンチンの血中濃度の増減と並行して動きます。一方、β-クリプトキサンチンはプロビタミンAとして、必要に応じて体内でビタミンAに変換されます。
また、β-クリプトキサンチンの血中濃度の半減期は1〜2ヶ月と長いため、みかんがたくさん流通する時期(11月〜2月)にみかんを多く食べることで、春から秋も比較的血中濃度を高く保つことが出来ます。
β‐クリプトキサンチンは、温州みかん1個(約100g)につき1〜2mg程度含まれ、これは、オレンジやグレープフルーツの約60〜100倍にもなります。また、完熟させるほど含有量が多くなり、重量当りでは、果肉よりも果皮(フラベド)に多く含まれています。
ところで、温州みかんのもうひとつの有効成分として知られるヘスペリジン (Hesperidin) は、まだ熟していない青みかん、特に水入り直前の青みかんに多く含まれ、含有量は完熟みかんの10数倍といわれています。
β-クリプトキサンチンは他のカロテノイドと同様に、抗酸化物質としてフリーラジカルによる酸化的損傷から細胞およびDNAを保護していると考えられていて、生活習慣病やガンを予防すると考えられ、毎日ミカンを1〜2個食べるだけでガン予防などの効果が期待されています。
β-クリプトキサンチンは、(独)農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所を中心としたグループの疫学研究などを通じて、糖尿病や、がん、そして、肝疾患・動脈硬化・骨粗鬆症等の生活習慣病との関連も検討され、注目されている成分です。
ところで、みかんは、糖尿病予防に有望ですが、生とジュースとでは効果が異なるようです。ジュースは手軽に摂取でき、グレープフルーツやオレンジなどのジュースが循環器系疾患の予防に効果的であることは既に幾つかの研究報告が示されています。
しかしながら糖尿病については逆にリスクを上げるようです。ジュースにすることで食物繊維や植物性二次代謝産物などの糖尿病予防に有効と考えられる成分がジュースでは十分に取れず、また糖質を短時間でしかも大量に摂取することが逆に糖尿病のリスクを高める結果になっているのではないかと考えられています。
みかんの皮